2025.06.27

「これまで」を注ぎ、「これから」を紡ぐ。特別な焼酎が体現する100年の軌跡。

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変わらないもの。変えていくもの。
霧島酒造が周年記念ボトルに込める想いとは。

霧島酒造は節目の年ごとに、受け継がれた技と想いを結集し、その歴史を体現する特別な焼酎を世に生み出してきた。
創業70周年に造られた『吉助』を始めとした、周年記念ボトルである。霧島酒造では、これまで7回に渡り周年記念ボトルを販売。直近の2016年には創業100周年を記念し『百瑠璃(ヒャクルリ)』を販売した。
「開発から発売まで約4年の年月をかけました。『百瑠璃』は、大正から100年続く焼酎造りの集大成に相応しい商品にしたいと思い、全社をあげて造りました」
そう語るのは、当時、企画室で企画・開発に携わっていた田浦壽人。
常時販売されている霧島酒造の焼酎とはひと味違う周年記念ボトルは、どのように生まれたのだろうか。

周年記念ボトルの開発は、主に企画室と研究開発部を中心としたディスカッションから始まる。
霧島酒造創業100周年を体現するテーマとはなにか。
「歴史、伝統、挑戦、そして飛躍」がキーワードとして選ばれた。それらを集約し、「不易流行」というテーマが決まった。
不易流行とは、いつまでも変化しない本質を大切にしながらも、新しい変化を重ねていくという意味である。
「100年という長い歴史を感じていただくことも大切ですが、それと同じくらい、未来に向けた躍進を感じていただける商品にしたい。そう思いこのテーマを掲げました」

「不易流行」を『百瑠璃』でどのように表現するか。まず要素として挙がったのは、本格芋焼酎であること。
霧島酒造にとって核とも言えるこだわりだ。
また、100周年という特別な節目の年に出すものとして、紅白2種類のセットにするアイデアが挙がった。「歴史・伝統」と「挑戦・飛躍」、過去と未来の2方向のテーマを表現する上でも時宜(じぎ)を得ていた。それぞれを『白瑠璃(シロルリ)』『赤瑠璃(アカルリ)』と名付けた。紅白それぞれのベースとなる焼酎には、白霧島と赤霧島が選ばれた。しかしこれは、色だけで選んだわけではない。
「白霧島は、霧島酒造の原点である『霧島』の後継商品であり、まさに100年の歴史や伝統を体現しています。また、赤霧島は、発売当時は革新的だった紫優(ムラサキマサリ)を原料とした焼酎。挑戦や飛躍の象徴としても相応しいと思いました」
各焼酎は霧島酒造独自の特別な蒸留方法で、40度という高濃度で、より濃い味わいに造りあげた。そして、酒質を決めるブレンダーの手により、『白瑠璃』はすっきりクリアで豊かな余韻が残る味わい、『赤瑠璃』はフルーツのようなみずみずしい香りでしっかりとした濃厚な味わいを実現した。

『白瑠璃』のベースとなった白霧島と『赤瑠璃』のベースとなった赤霧島

周年記念ボトルのこだわりは、中身だけではない。
「最も時間を要し、苦労したのは、ボトルを中心とした資材の開発かもしれません」
田浦は当時を振り返り語る。
ボトルのデザインは、古来より酒を入れる容器として用いられ、また縁起も良いとされる「ひょうたん」のフォルムと、正倉院の宝物にもある伝統的なササンガラス「円形切子碗」をモチーフとした。
円形切子碗の特徴である円形の窓は98個。それにボトルの口部と底面の2個を合わせて、合計100個の円で構成されている。
「円は、ご縁をつなぐ“輪”であり、人と人との“和”、人と風土をつなぐ“環”を表しています」
100年で培ってきた様々なものが表現されている。

この唯一無二のボトルデザインを実現するためには、国内では難しく、海外のボトルメーカーに特注する必要があった。
細部へのこだわりや、色合いなどの絶妙なニュアンス、品質や安全性の担保も含め理想のボトルを製造してもらうために、幾度となく海外に赴き、通訳を通して懸命にコミュニケーションを重ねた。
「ボトルの試作は数え切れないほど行いました。メーカーの担当者さんが途中でさじを投げてしまうこともあり、そうなるとまた一から注文のやり直し。不慣れな環境で本当に苦労しました」と、やや苦い笑顔で語る田浦。
しかし、苦難があったからこそ、得られたものも大きかったという。
「当時、私がまだ若く経験が浅かったこともあり、プロジェクトを引っ張っていた先輩方のモノづくりへの情熱から学ぶことが多くありました。現場に任せるのではなく、忙しい合間を縫ってでも何度も現地に赴き、納得するまで試行錯誤を重ねる。現場で自分が感動できなければ、その商品を受け取ったお客様に感動は与えられない。この姿勢は『品質をときめきに』を企業スローガンに掲げる霧島酒造のスピリットとして、深く胸に刻まれています」

数々のこだわりを詰め込んだ、100年の集大成『百瑠璃』。
手にしたお客様からは、味わいへの嬉しい声はもちろん、飲み終えた後も縁起がよいので飾っているという声、もったいなくて未開封のまま大切に保管しているという声も聞かれるそうだ。
周年記念ボトルは、基本的に販売期間や本数を定めた限定品だが、95周年記念ボトルである『〈玉〉(ギョク)金霧島』は発売時のものからリニューアルし、現在は常時出荷できる商品として定着している。
「周年記念ボトルの発売は、お客様への感謝を示す特別な機会でもあるため、規格外なことにも挑戦しています。しかし、そこでの挑戦が新たな商品開発の種になり、また霧島酒造の歴史を紡いでいく。そうやって一つ一つ新たな未来へ向かっていけたらと思います」

創業100周年の節目に凝縮された技と想いは、次なる一歩への礎となった。2026年に創業110周年を迎える霧島酒造は、すでに新たな物語を紡ぐ準備を進めている。そのお酒はきっと、時代を映した記憶に残る特別な一滴となるだろう。

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